米国内航保護制度の代名詞のようになっているジョーンズ・アクトは「米国の地点間」の物品の「輸送」に適用されるものであることに留意してください。オフショア産業においてジョーンズ・アクトが適用されるかどうかは「米国地点間」における「物品の輸送」にあてはまるかどうかにより判断されます。
以下にジョーンズ・アクトとOSVの関係についてよくある質問に対して簡単な説明をさせていただきます。ジョーンズアクトはその施行が複雑であることから、実際のビジネスの場合、必ず専門の弁護士に相談することをおすすめします。
ジョーンズアクトでは米国建造が義務づけられていますが、米国メキシコ湾に設置されている掘削リグやドリルシップ、FPSOは韓国、シンガポール等海外造船所で建造されてます。どうしてですか?
掘削リグ、ドリルシップ(MODU)、FPSO等は現場に据付けられて作業を行うものであり、「米国地点間の物品の輸送」に従事していないので、内航輸送保護制度であるジョーンズ・アクトの対象とはなりません。そのため米国内で建造することは義務づけられていません。
2010 年のディープウォーターホライゾン事故の際に、業界の事情に明るくない議員からMODUにも米国建造を義務づけようとする動きが出ましたが、米国内に大水深用MODUを建造する能力はなく、米国建造を義務づけたりしたらメキシコ湾オフショア開発が停止してしまうことは明白なので、相手にされませんでした。予想しうる将来に実現する可能性はないと考えます。
MODU市場は需要にあわせて世界中の市場に動員される「国際市場」です。米国大陸棚外縁で掘削作業を行うMODUに米国建造が義務づけられた場合、米国内に建造技術があったとしても米国建造ではべらぼうなコストがかかり、リグの国際競争力が失われます。つまり、米国でしか雇えないリグとなってしまうのです。また、オフショア探鉱生産のコストもべらぼうになり、メキシコ湾石油産業自体が採算性を失います。石油会社は巨大なロビー力を持っていますので、そのような案件が議会を通過することはないでしょう。
OSV(オフショア支援船)にはジョーンズ・アクトが適用となり、米国造船所でしか建造できないのでしょうか?
MODU、FPSO等の浮体式オフショア油田開発施設は米国大陸棚上に設置されている間は「米国内の地点」とみなされます。設置つまりは現場に係留された時点で「地点」となります。それゆえに、米国本土とオフショア施設の間の「物品の輸送」に携わるOSVにはジョーンズ・アクトが適用され、米国建造が義務づけられます。同じ理由で、FPSOで生産された原油を本土まで積み出すためのシャトルタンカーにも米国建造が義務づけられています。
ジョーンズ・アクトが適用されるOSVは米国中小型造船産業の飯の種であり、要件が強化されることはあっても緩和されることはまずないと思われます。米国国内の造船所を買収して現地で建造しない限り、日本造船所の参入は不可能です。
米国のオフショアサービス事業者/OSV船主であるTidewaterが中国でOSVを大量に建造していますが、これをメキシコ湾サービスに利用することは可能なのでしょうか?
米国本土とオフショア施設の間の「物品の輸送」に携わるOSVにはジョーンズ・アクトが適用されるため、中国建造のOSVを米国メキシコ湾サービスに投入することはできません。OSVは需要に応じて世界中を移動することが可能であり、OSVサービス市場は通常国際市場と考えられていますが、米国メキシコ湾におけるサービスに従事するOSVには米国建造が義務づけられるため、実質的には「米国市場」と「米国以外の市場」の2つの市場に分かれます。
米国メキシコ湾用に米国建造されたOSVを外国に移動して使用することは可能ですが、逆は認められません。米国建造はコストが大幅に高く、米国籍を維持するためには米国人配乗が義務づけられるために運航コストも大幅に高くなります。また一旦外国籍に転籍すると、後に米国籍に戻してもジョーンズ・アクト内航資格を失うため、米国向けに建造された高価なOSVを(メキシコ、ブラジルを例外とし)国外で使用することはめったにありません。
Tidewaterは米国企業ですが米国メキシコ湾以外にアラビア湾、オーストラリア、ブラジル、エジプト、インド、インドネシア、マレーシア、メキシコ、トリニダード、西アフリカでOSVサービス事業を行っており、国際事業による売上が米国事業を大きく上回ります。ご指摘の中国建造OSVは「米国以外」の市場に投入されているものです。2014年3月に同社が保有/運用していた294隻のうち米国籍船は35隻です。
微妙な線にあるパイプ敷設作業船
特殊なオフショア作業船(パイプ敷設作業船、ランチバージ等)に関しては、ジョーンズ・アクトによる内航資格を保有する適切な米国籍船が利用できない場合、外国籍船の利用が認められることがあります。
これまでCBPは外国籍パイプ敷設作業船が当該船上から作業を行う場合に限り、当該作業に付随するパイプ、コネクター等の資材、作業用機材を輸送することを認めてきました。これはCBPの行政上の判断によるものです。2009年にCBPはパイプ敷設作業等に関するジョーンズ・アクト適用免除のこれまでの判断を修正し、米国籍・米国建造船に限定する意図を表明しましたが、経済的に広範な影響が及ぶ可能性があるのに対しコメント期間が短いとの批判を受け、これを取り下げた経緯があります。
パイプ敷設船にジョーンズ・アクトが適用された場合、長期的にはパイプライン敷設コストが上昇し、シャトルタンカーの利用が有利となる可能性があります。