ジョーンズ・アクト諸々

米国内航航路は「沿岸」航路とは限らない

日本と違い、米国内航輸送は「沿岸」輸送とは限りません。米国内航は英語でcoastwise tradeとされますが、米国本土とハワイ、グアムを結ぶ外洋航路も外航航路ではなく内航(国内)航路となります。アラスカと米国本土(lower 48 states)間、プエルトリコと米国本土間もジョーンズ・アクトが適用される内航航路です。係る航路で運航される原油タンカー、コンテナ船、プロダクトタンカー等の大型の航洋船(Ocean Going Vessels)も内航船となります。

Ocean Going Vesselsは「大洋航行ができる船」という意味で航洋船と訳し、外航船(vessels in foreign trade)と明確に区別する必要があります。

米国建造要件により係る内航船は米国造船所で建造されなければなりません。米国のほとんどの造船所はジョーンズ・アクト船建造需要で成り立っています。

米国籍船は必ずしも米国建造である必要はない

米国籍船(US Flag Vessels)=ジョーンズ・アクト船(Jones Act Vessels)ではありません。一般の米国籍船には米国人配乗、米国人所有が義務付けられますが、米国建造は義務付けられていません。外国建造の米国籍船は米国政府貨物等の外航輸送(U.S. Foreign Trade)に従事しています。米国籍外航船とジョーンズ・アクト船では「米国人所有」の定義が異なるということに留意してください。

米国建造の定義

ジョーンズ・アクトの米国建造要件は国内造船雇用を確保することが目的ですので、未加工の鋼材や艤装品、機関、舶用機器等は輸入してもかまいません。主機はもちろん、組立済みの機関室モジュール、形鋼、船殻の一部の輸入が認められています。ただし、据付けは米国内で行わなければなりません。

どの程度まで輸入OKか?

限られた例外を除いて、米国国内航路に従事することが認められるのは米国内で建造された船舶のみです。USCGが所掌する船舶登録において米国建造と定義されるためには (a) 船こく及び上部構造物の主要な構成材はすべて米国内で製作され、(b)船舶の組立はすべて米国で行われる、必要があります。

この場合「船こく」とは外板(Shell)または外囲壁(outer casting)及び通常の条件下で船舶が水に浮くための外皮(floatation envelope)と構造上の完全性(structural integrity)を提供する主甲板下の内部構造を意味します。

推進機関、コンソール、配船用ハーネス、その他の艤装品のような船殻または上部構造に不可欠でない品目には外国製品の使用が認められています。

資材については、いかなる形でも加工されていない限りにおいて、鋼材のような外国製の原材料の使用量に制限はありません。

外国製品が製品の総重量の1.5%未満である場合、船こくまたは上部構造物の「主要な」構成材とはみなされません。

以上の条件を満たすかどうかについては、建造前に専門の弁護士を通じてUSCGに判断を求めるのが一般的です。USCGがジョーンズ・アクト国内建造要件に違反しないとする見解を示していても、労組、米国造船業界団体、他の船主等が違法として訴えることはままあります。これまでの目立ったケースではUSCGの判断が認められています。裁判で「合法」の判断が出るたびにそれが判例となり、その後の判断の根拠となる、という仕組みになっているため一概にoo%とは言えません。ジョーンズ・アクトに関しては必ず専門の海事弁護士に相談することをおすすめします。

「プレハブ」工法

参考になるケースはAkerフィラデルフィア造船所の「プレハブ」工法でしょう。Akerフィラデルフィアは韓国DSMEの子会社と提携してプロダクトタンカーを連続建造しましたが、以下の外国製コンポーネントの使用が認められました。

• 球状船尾と球状船首
• T-Bar構造部材
• 水密扉
• ラダーホーン(マウンティングプレート付き)
• 造船用形鋼(Shipbuilding Angle)
• 機関室機器モジュール(配管、バルブ、電気制御装置を含む)

球状船尾、球状船首、外国で切断、曲げ、マーキングが行われる外板等は外国で加工されたと見なされ、これらの品目の総重量が船舶1隻あたりの鋼材重量の1.5%未満である必要があります。ラダーホーン用鋳物は船こくとは不可分とはみなされないので、「1.5%未満」の計算には含まれません。

外国製LNG燃料タンク、BWTSも船殻と不可分とはみなされないので外国製ユニットの使用が認められています。

洋上風力発電とジョーンズアクト

米国のエネルギー政策は2030年までに54ギガワットの洋上風力発電能力を導入を目標としています。複数の洋上風力発電プロジェクトが米国で計画及び開発段階にありますが、米国の洋上風力発電開発のペースを遅らせるている要因の一つがジョーンズアクトであることは意外と知られていません。

ジョーンズアクトでは米国2地点間の物品輸送に米国建造船を使用することが義務付けられています。米国の領海外大陸棚(Outer Continental Shelf)の海底に取り付けるかたちで設置された構造物は米国内の地点とみなされます。浮体式洋上生産貯蔵積出設備(FPSO)や海洋移動掘削ユニット(MDU)のような一時的に海底に係留される構造物も係留中は「米国内の地点」となります。

米国で洋上風力発電ファームを建設する際には、基礎の杭打ちをした瞬間にジョーンズアクトが適用されることになり、基礎上に設置するタービンを米国から輸送するためには米国建造船を使用しなければなりません。解決策としては、領海外大陸棚上の風車設置場所に外国建造の風車設置作業船を配備し、陸側から米国建造バージでタービンを輸送する方法が考えられます。しかし、欧州からの風車設置専用作業船チャーターにはコストがかかるため、米国内航資格を有する風車設置船の開発が望まれます。

風車の運転開始後の保守点検作業にも米国建造船が必要となるため、米国造船所は洋上風力発電プロジェクトの動向を注視しています。